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インフルエンサーのステルスマーケティング問題とそのリスク

インフルエンサーマーケティングを行ううえで、必ず理解しておかなければならない「ステルスマーケティング」。なぜなら、ステルスマーケティングは企業やインフルエンサーの信用を一度に失いかねない危険な施策だからです。

具体的にどのような点が問題なのか、日本における事例も含めて解説します。

インフルエンサーマーケティングとは?知っておくべき基礎知識と成功事例そこで、近年注目されている「インフルエンサーマーケティング」について、成功事例やインフルエンサーの見つけ方まで幅広くご紹介します。 「インフルエンサーマーケティング」とは、企業がPRしたい商品やサービス、メディアなどをインフルエンサーの発信を介して消費者に届ける施策のことを指します。...

ステルスマーケティングとは

ステルスマーケティングとは、広告行為であることを消費者に隠しながら商品やサービスをPRする手法のことを指し、「ステマ」の略語でも知られています。その行為がステマにあたるかどうかの判断基準において、金銭の授受は必ずしも関係ありません。

企業やインフルエンサーの意思疎通のズレからも起こりうる問題で、結果として企業が謝罪したり、インフルエンサーが活動停止に追い込まれる事態にまで発展する可能性があります。

大きく分けて2つのパターンがある

ステルスマーケティングは、大きく2つに分類されます。意図せずステマと判断されないためにも、これらのパターンを確認してください。

1.なりすまし型

サービスを提供する側の人間が一般の消費者になりすまして、商品やサービスをPRするパターンです。具体的には、企業の従業員が消費者を装い、自社商品を良いものだと発信することなどが挙げられます。また、口コミサイトにおいて、代行業者や関係者が消費者を装って良い評価をつけるということも、こちらのパターンに該当します。

2.利益提供秘匿型

インフルエンサーなど影響力のある人が、宣伝であることを明らかにせずにPR行為をするパターンです。例えばInstagramやTwitterにおいては、PR投稿に「#PR」「#AD」などのハッシュタグをつけることでステルスマーケティングを回避できますが、あえてそのような表記をせずに発信するとステマと認定されてしまいます。消費者が広告であると判断できるかどうかが重要なポイントです。

ステルスマーケティングの問題点

ステルスマーケィングの具体的な問題点について解説します。ステマの疑惑・発覚によりネットの炎上が度々話題となりますが、「なぜステマはダメなのか」を改めて理解しておきましょう。

消費者を欺く行為である

近年では特に、インフルエンサーの意見は消費者の選択に大きな影響を与えます。そのため、インフルエンサーが広告行為であることを隠して商品やサービスを良いものだと宣伝することは、「信頼・共感できるものを選択する」という消費者の行動を阻害し、不利益をもたらすことにつながります。

さらにステマが発覚すれば、「消費者を欺くことまでしないと選んでもらえないレベルの商品(サービス)である」という印象も持たれてしまいます。

企業やインフルエンサーは信用を失う

ステルスマーケティングが発覚すると、その情報は一気に拡散され、関与したインフルエンサーや企業に批判が集まります。実際にこれまでも、企業が謝罪文を発表したり、芸能人やインフルエンサーが活動停止に追い込まれたりしています。以前はその商品やサービスに興味がなかった人も、炎上をきっかけとして「あそこはステマをする会社だ」「◯◯(インフルエンサー)は今までもステマをしていたんじゃないか」という先入観が芽生えます。ステマにより失った信用は、取り戻すのに時間がかかるでしょう。

業界全体の信用問題に発展する可能性も

ステルスマーケティングは、当事者だけの問題ではありません。いち企業のステマが発覚した際には、関連する業界や企業の信用まで落ちてしまう可能性があります。過去には『食べログ』において、一部の掲載店舗が口コミ代行業者にお金を支払い、高評価をつけてもらっていたというステマ事件がありました。一部の店舗がそのような行為をしたことで、食べログに掲載されている他の店舗の評価自体も、一時は消費者にとって素直に信用できないものとなってしまいました。

ステマ行為は業界全体の信用問題に発展する大きなリスクがあるということを、きちんと理解しておかなければなりません。

ステルスマーケティングの3つの事例

日本におけるステルスマーケティングの事例を3つご紹介します。消費者の目は決して甘くなく、現代のデジタル社会においてステマはすぐに見破られてしまう手法だと言えます。

1.アナ雪2ステマ漫画事件

映画『アナと雪の女王2』が公開された直後の2019年12月3日、Twitter上で7人のクリエイターが一斉に映画の感想漫画を投稿しました。7人がほぼ同時に、同じハッシュタグを使って投稿されるなどの不自然さからステマ疑惑が浮上し、同月5日と11日にウォルト・ディズニー・ジャパンが謝罪文を発表しました。

コミュニケーションの行き違いでPRであることが明記されずに投稿されてしまったということですが、その説明と整合のとれない不自然な点などもあり、消費者の不信感は拭えない結果となっています。

2.ペニーオークション詐欺事件

ステルスマーケティングが世間に幅広く認知されるきっかけとなったのが、「ペニーオークション詐欺事件」です。2012年、芸能人(インフルエンサー)が報酬などを受け取っていることを隠して、インターネットオークションサイト『ペニーオークション』の宣伝を行っていました。高額商品を格安で落札したという虚偽の投稿をしていたことから大きな問題となりました。

3.オルビス社員ステマ事件

化粧品や栄養補助食品などを販売する『オルビス株式会社』の従業員が、従業員であることを明らかにせずSNS上で同社の商品紹介を行っていた問題です。従業員はフォロワーが約3.8万人いた美容系マイクロインフルエンサーでしたが、プロフィール写真などの情報から、同社に所属するPR担当者と同一人物ではないかという疑惑が生じました。オルビスは、ステマを生じさせないための社内ルールがあったものの、そのルールが徹底されていなかったと事実関係を認め、2021年1月21日に謝罪文を発表しました。

ステルスマーケティングは違法なの?

そもそもステルスマーケティングが行われるようになったのは、アメリカでのブログブームがきっかけと言われています。アメリカを始め、ステマ=違法となる国も多く、今後も規制は厳しくなると予想されます。

海外では違法となるケースが多い

例えばアメリカにおいては、「商品・サービスを提供する側(企業など)」と「広告する側(インフルエンサーなど)」の関係や、金銭授受の有無を開示することが義務づけられています。

消費者が広告だとわかる表記のない宣伝行為は明確に法律で禁止されており、違反すると政府に多額の罰金を払わなければならない場合もあるようです。

日本でも今後罰則が厳しくなると予想される

日本においては、ステルスマーケティングが明確な罰則につながるという法的根拠が現在のところはありません。ただし、商品やサービスが「著しく良いもの」と消費者に誤認されるような情報を発信している場合には、景品表示法の不当表示に該当する場合があります。さらには、実際には購入していないのにもかかわらず、あたかも購入したかのように偽って情報を発信する行為は、人を欺く広告をしたとして軽犯罪法に抵触する可能性もあります。欧米などと比べ、ステマに関する日本の法規制は遅れていることから、今後罰則は厳しくなることが予想されます。

企業もインフルエンサーも信用を失わないために

ステルスマーケティングは、消費者やインフルエンサーを傷つけ、企業が築いてきた信用を一度に失ってしまう可能性が高い手法です。海外の研究では、「ステルスマーケティングであっても広告と明示しても、その広告効果は変わらない」という結果も出ています。リスクを背負ってまでステマに手を出すことが果たして得策と言えるのか、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

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